今回の「おとな」は永岡大輔さん。永岡さんはアーティストで、この「おとな図鑑」の発案者でもあります。主に鉛筆やインクなどで、線を繰り返し重ねたドローイングや映像作品の制作、朗読体験を通して人々の記憶に繋げるプロジェクトやワークショップなど、様々な表現活動を展開しています。 最初に永岡さんは会場の皆さんに向けて「アートとは何か」を問いかけました。参加者の方たちからは「芸術」、「創造性」、「個性」など様々な答えが出ました。永岡さんはその答え全てに共感し、「アート」とは「人が作った技術」であり、決して固定化したものではないと伝えました。そして黒板に書き出されたたくさんの答えは、この空間の中にいる人たちと生み出したアートの概念そのものであるとも。つまり、それぞれの人たちの生み出した発想が概念となります。難しいなと思いました。 永岡さんは、山形県で生まれました。幼稚園の時の将来の夢が、大工さんと一緒に家を建てることで、その理由は大工さんが楽しそうに家を作っているのを見たからだそうです。そして、小学二年生になったある日、祖母から友人の画家のスケッチブックを見せてもらい、画家になりたいと思ったそうです。その絵には花びらや葉っぱが美しく描かれていました。 高校時代その思いは強まり、大学では美術を勉強しようとしました。しかし、絵を描きたいことを相談すると、両親は反対したそうです。永岡さんはそう思ったのなら仕方ないと、両親を説得しようと決心しましたが、それでも説得することができず、画家の勉強を先延ばしすることにしました。大学では商学部に進学し、経済学を勉強したそうです。そして大学卒業の頃、再び両親に相談。美術系の大学に入り直して、勉強したいことを伝えました。その時父に言われた言葉は反対の言葉ではなく、「大学を卒業したらもう社会人なのだから、自分で勉強したかったら、自分で稼いで、学べば良い。」と、自分で道を切り拓く事を教えられました。大学卒業後は、会社員として三年半会社に勤めた後、ついにイギリスで絵の勉強をすることになりました。 永岡さんは今まで両親に反対されていた事は、実は支えになったと語っており、それは自分にとっての絵画を考える時間を与えてくれたそうです。自分の気持ちや、意思に気づくためのプロセスであり、賛否というのはどちらにしても意味のある考えだと述べました。 次にお金をテーマにお話をしました。永岡さんは会場の皆さんに「おいしいご飯を食べるのに必要なものは?」と質問しました。会場からは「食材」、「働く」、「料理方法」など答えが出ました。永岡さんは参加者の方たちが出した案全てに対して、お金をかけずにできる方法を提案しました。その一例を紹介します。食材の場合、お金がなくても誰かから貰うことで得られます。料理方法の場合、料理教室やテレビや本などはお金がかかりますが、近所の人や知り合いから教われば、お金は必要ありません。このように、おいしいご飯を食べるにはお金がなくてもできるのではないかと思っているそうです。自分で考えれば何かできたり、作る事ができる。それは生きることに密接して関係する事であり、やりたいことをやりたかった永岡さんにとってこの考えは大切で、成し遂げる事ができたからこそ言える言葉だと思いました。 そしてお話の最後は、自身が今まで描いてきた作品を紹介してくれました!永岡さんは現在、「球体の家」の制作に取り組んでおり、そのきっかけは自身が幼い頃、体験した大きな地震であると話してくれました。大工さんになりたかった子供時代の永岡さんは、どんな揺れが来ても、潰れず、大地が割れても、波が来ても壊れない、転がる家を考えたのだそうです。 しかし、実際に構想し作り始めてみると、ご飯やトイレ、お風呂はどうするのか。転がっていたら全く知らない場所にいたなんて事もあり得ます。「球体の家」を作るに当たり、生きるために必要なものは全て新たに一から考えて作らなければなりません。 最後に、アーティストとしての歩みを語ってきた永岡さんは、自身がアーティストであると名乗ることについて確信がないと述べ、その理由についてお話しされました。これまでたくさんの絵を描いてきたり、立体作品を作ってきたり、アートの枠をはみ出すような活動もしていて、色々な事をやってきました。そんな中、江渡狄嶺(えとてきれい)さんの本の中にある、「何か自分が本気でやりたいことはそれを超えるほど全力で、否定できるまでやる」という言葉に出会いました。彼の言葉に倣えば、アートを本気でやることは、アートを超えて、あるいは否定できるまでやるということになります。 私自身も考えを主張すると否定される事はありますが、その否定は決して自分を邪魔している事ではないこと、また、一つ一つの考えが正解不正解とかではなく、世の中には色々な考えを持つ人がいるのだと今回のお話を聞いて改めて気付きました。この経験を糧に様々な事に挑戦していきたいです。
第5回おとな図鑑実施日:2019/12/15
(テキスト:学生ボランティア 折原聖太、写真:塚本弦汰)
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